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前売りチケット行列日記
STAR WARS EPISODE1の初回前売りチケット入手を目指して、Chinese Theater前に行列した時の記録。
チケットには関係ないこともたくさん書いてありますが、行列の雰囲気が伝われば、と思います。


1999年5月11日午後7時30分、STAR WARS EPISODE1 The Phantom Menace前売券発売の16時間30分前。
「Humburger Hamlet」で夕食を済ませた私達は、まだ日が照っているうちに行列へ到着。行列はChinese Theater前から右へ伸び、駐車場前を越えてさらに右へ曲がって1/3ブロックほどの場所で最後尾だった。
私達は20代後半の日本人女性2人組。初期装備はピクニックシート、防寒着各種、水、プリングルス、パウンドケーキ、チーズケーキ、しゃけの薫製。

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列についてすぐ、「やあ」とあいさつしてくれたのは、前に並んでいる二人組み。ルーカスの出身校・南カリフォルニア大学テレビ・映画学科の学生なのは、服や帽子を学科のロゴ入りグッズでかためているのですぐにわかる。ただでさえ映画で有名な学校だけど、今日は特に自校が誇らしいのかも。とはいえ、おおはしゃぎするわけでもなく、携帯テレビを観たりしていてもの静か。
ほどなく、その2人と対照的な人が後ろについた。周囲を巻き込んでハイテンションでさわぎまくるこの人は、ジャパントーイ輸入販売店店主・リッキー。奥さんは日本人で、原宿にUSトーイの店を持っているそう。スケートボードでうろうろ遊んで落ち着かない。詳しそうなので、近くにおもちゃ屋さんがあったらあとで行きたいと言ってみると、彼のスケートボードでなら3蹴りで行けるという近くの店を「ヤスイ!」とか言いながら教えてくれる。彼は怪しい日本語を連発しながら、飛行機疲れで早寝しようとする私達を叩き起こしてパーティー気分。おかげさまで英語に難がある私達もなんとなく周りに溶け込めたので、騒がしいけどありがたい人だった。

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ほどなく行列の前のほうから若者二人がやってきて、ポッドレース柄ノートを開いて何やら説明し始めた。countdown.comの団体が1ヵ月前から行列先頭にいるのをひとまず踏まえた上で、その残りのチケットを、後ろの私達が電話サービスに負けずに素早く買えるように計画を考えたとか。全員の名前とさらに朝までに加わる人数などを聞いておいて、集金していっきに買ってしまおうということらしい。
英語の苦手そうな私達には特に丁寧に説明してくれ、質問にもゆっくり答えてくれる、ナイスな自発的幹事くんたちだった。
Countdown.comの人たちが行列先頭でたくさんのチケットを抑えるだろうということは、私もサイトを見て知っていて多少計算に入れていたけれど、ここアメリカでも同じようにそれを知り対策を練っている人たちがいたわけだと思うと、海を越えて情報が同期していることに、インターネットのありがたみを感じる。この道端で初めて会った人と「あなたはcountdown.comの人?」というような会話をたどたどしい英語で当たり前みたいにする。相手だって知ってて驚かない。なんだか不思議。

そうこうしているうちに周りの話題が、マークハミルがプレミアのときにサングラス姿でこそこそしていたのは何故かということになった。英語が上手く話せないのでそれまで聞くだけにしていたのだけれど、マークファンとして奮い立ち、「もうSWと距離を保ちたいからなんだと思う」と横やりを入れてみた。すると「どうして? 今は他の仕事に集中してるから? アニメの声とか?」と切り返し。すると行列各所から「ガイバーだよ」という声と笑い。マークに関する笑いのツボは日米共通のよう。

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夜中の行列は花見の陣とりのような状態だったので、ちょっと抜けたからといって後ろからつめられたりすることはない。だから3時間くらいおきに1ブロック先のホテルに戻って、トイレを使ったり毛布を持ち出したりできた。ホテルは行列の最後尾方向にあったので、その度にぐんぐん列が伸びているのがわかった。
最終的に行列は、チャイニーズシアターを囲む広大なブロックの3辺を行列が埋め尽くした。行列は男性が大部分だけれど、ところどころに女性もいるし、なんと子供までいる。家に子供だけ残しておくのは法律で禁止されているらしいから、どうしても行列したい両親が連れて来たんだと思う。
外国人らしいのは、行列前方に中国系らしい5、6人の団体が漢字の名前の入った傘を陣地に掲げているのを見付けた。それに後方にタイ人のように見える4、5人のグループも。ヨーロッパからもたくさん来るとネット上の情報では聞いていたけれど、私には見分ける事ができなかった。

ダースモールのエアソファが人気で、何人もが地面に置いて使っていた。それを見て欲しくなって店へ走った人が多いのか、朝にはもっと増え、アミダラやジャージャーも加わった。いかにも「子供のころ買ってもらった」という感じにボロボロの、SWイラスト入り毛布を敷いている人も多い。これにはいろいろな柄があって、うらやましかった。

午前2時を過ぎると、みんな静かになってきて、毛布や寝袋にくるまって眠る人も増える。
それでも通り過ぎる車からはときおり、「STAR WARS!」とか声がかかる。テレビカメラが次々やってきて、人間まぐろが並ぶ様子を撮影しては去っていく。ダースモールのエアソファを使っている人やSWのボードゲームをしている人も、格好の撮影対象。

夜が明けると、自主的幹事くんたちがまたやってきて、チケットの値段が安い上映回があることが判明したと言う。チケットの値段が一様でないと、全員の希望チケットをいっきに買う計画は難しい。実行不可能、やはり個人個人で買うしかない。せっかく名前を聞いたりして準備していたのに、幹事くん残念。

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日がすっかり昇りきると、またテレビ取材が増えてくる。今度はインタビューが主体。好きなキャラクターは誰?というのがよくある質問だったけれど、「お前あれ聞かれたら、イウォークですって答えろ」「やだよーお前やれよ」といった声が聞こえてくる。イウォークってやっぱり、アメリカでもそういう存在?
一番好きなキャラクターはヨーダ、旧3作の中で一番好きなのは帝国の逆襲、という回答が多かったよう。

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コスプレをしている人(まだ公開日ではないからか、ほとんどいなかったけれど)など目立つ人には次々とインタビューがふりかかる。同盟軍ヘルメットをかぶっているだけのリッキーだって大人気。
私たち東洋人二人組にも1度だけ、共同通信社の女性がカメラとマイクを向けてきた。質問内容は、
何マイルの距離を来たの? 何時間のフライト?
ここまでわざわざSWを観に来ることについて、周りのひとはどう言ってた?
まだ観てない映画にそんなにお金をつぎこんでもいいの? もしおもしろくなかったら?

といったもの。最後の質問には、「これはお祝いだからいいんです」とだけ答えたけれど、後から考えたら、「私の国ではすっごく公開が遅れるんです。旧作もそうだったんです。だから大人になったらSWを初日にアメリカで観ようって、子供のころから夢だったんです……」とか切々と語って世界中の人たちとルーカスの涙を誘えばよかったと後悔。
後になって、日本のテレビで「(ここまで来るのを)夫は理解してくれています」というところが放送されたとか。結局そういう切り口かぁ〜。
行列には取材以外にもいろいろな人がやって来た。布教活動、オペラ歌手の大道芸、記念写真売り、Tシャツ売り(スターウォーズ行列記念柄!)、それにケータリングサービスのトラックも横付けしてきてコンテナを開いて商売を始めたりした。噂に聞いていたホームレスの物乞いは無かった。

ダースベーダー型ラジオも行列各所で使われていたもののひとつ。夜が明けてからというものラジオからは、ひっきりなしにこの行列についてのリポートや会話が流れている。カリフォルニアローカル局の扱いが特に多かったみたいだけれど、とにかく扱われまくっている。
どこかの局ではキャリーフィッシャーがゲストだった。

発売時間が近くなると、「持ち物をできるだけ少なくして、いつでもゴミを残さず前進できるようにしよう」と、自主的幹事くんたちが声をかけてまわる。みんな素直に賛成して行動するし、お互いに声もかけあう。知り会ったばかりだけど、力を合わせて一大イベントに向かおうという心意気が満ちている。

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発売1時間くらい前になると、自主的幹事くんのかけ声でみんな立ち上がってマットやソファもたたんで、前につめた。そしていよいよ12時、発売開始。突然、みんなが一斉に携帯電話を取り出してかけはじめた。行列にいながらにして、オンラインチケットサービスにも電話をかけようというわけだけれど、つながったという声はどこからも上がらない。全国サービスのMoviefoneもチャイニーズシアターもつながらないとわかると、みんな案外あっさりと電話をしまう(Moviefoneはコンピューターがダウンしたりしてパニックしてたということを後になってから聞いた)。
30分くらいすると、列前方から歓声があがる。そしてライトセーバーでチャンバラしながら踊り来る、countdown.comの人たち。初志貫徹、初回をとったんだね! いぃなぁ、と見やる私達。

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列の進みは当初の予想とまったく違ってノロノロもいいところ。日が高くなってきて暑い。
角を曲がり、チャイニーズシアター隣の駐車場入り口を横切る横断歩道に近づく。前のほうから何やら情報がまわってきてみんな大騒ぎになる。聞き取れなかったので前にいる学生に教えてもらうと、初回のチケットがまだ少し残っているらしい。わーい!と喜ぶと、「待ってよ、買えるって決まったわけじゃないんだよ」
その通り。それでもみんな気持ちはいっしょで、ウキウキ気分が周囲にみなぎる。

行列に何かの宣伝のヨーヨーが配られた。受取らないでいたら、学生くんが「俺ヨーヨーダメだから」とくれた。やってみると私はチョー下手。アツくなって練習する。すると周囲の人たちが、模範演技をみせてくれたりする。それまで言葉を交わさなかった人たちも混じる。私たちも行列の一員として認めてもらってたんだなぁなどとホカホカした気持ちに勝手になった。
一方、ヨーヨーをしていない人たちは野獣化していた。列を整える鉄さくの間から、観光客の女の子に叫びかけたり車にやじをとばしたり。日差しは強いわ、列はなかなか進まないわ、チケットに向けて気持ちははやるわで、どこかに発散しないと落ち着かない。

1回目のチケットが売り切れたという情報が、列の前方からまわってくる。「あーあ」といった雰囲気が一瞬流れるけれど、すぐに「それは最初から予期してたことだよね」「よし、2回目だ」というふうに変わる。みんなホントに前向きで無邪気で明るい。SW EPISODE1公開という出来事の明るさがそうさせていたんだと思う。

やっとのことで窓口に到着。もう午後の3時を回っていた。張り切って希望日時と枚数を書いた紙を見せると、窓口のお姉さんはそれをじっと見てから一言「何日何時の券にしますか?」とマニュアル通りのセリフを眠そうに。
この無気力パワーによって、私達みんなの昨夜からの作戦は見事に砕け散っていたのだと判明。恐らく1000人近くが徹夜しラジオやテレビがガンガン報道したイベントの中心である小さな窓口の、この人だけがこんなに無気力なのが、なんだかおかしかった。

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チケットを買っても、行列仲間はまだその辺でたむろしている。ホテルに帰る私達が、あいさつしようとリッキーに声をかけると、「2回目を買えておめでとう!」とにっこり。初回は買えなかったけど、みんなハッピーだったのだ。行列は楽しかったし、なんといっても、これでEPISODE1を世界で最初の夜に観られるってことが決まったんだから。
この人たちと観られるなら、きっといい上映になる。そう確信できて、嬉しかった。

結局、5月18日午後あたりまで、19日2回目の上映分のチケットは売り切れなかった。19日の夕方から夜の回はあっという間に売り切れていたけれど。案外、人々は常識的な時間に観ようとするのだ。そりゃそうか、普通。

5月19日午前3時30分。 週の真ん中水曜日のウシミツ時に、世界で一番有名な映画館に集まった、ちょっと普通でない1600人の観客による2回目の上映は、思ったとおり、いやそれ以上に、愛に満ちた、素直なそして気のきいた声援、笑い、興奮と緊張と喜びに溢れた上映でした。

KYOKO